リスクマネジメントは「マネジメント」である以上、PDCAサイクルを回すことが重要です。
しかし実際には、リスクの洗い出し、分析・評価、対応策の実施という一方向の活動にとどまっているケースが多く見受けられます。
そこで本ブログでは、対応策の実行状況を適切にモニタリングし、継続的な改善活動へとつなげるための一つのアプローチとして、モニタリングの進め方を以下に整理しました。
1. モニタリングの出発点は「リスクシナリオの明確化」
モニタリングを行うにあたっては、まずリスクシナリオ(発生原因と、それに伴うリスク顕在化後の影響(結果))を明確に記述することが重要です。
リスクの発生要因や顕在化後の影響が曖昧なままでは、対応策の妥当性や評価軸がぶれてしまう恐れがあるためです。
例1:情報漏洩リスク
発生原因
USBメモリの持ち出し制限が不十分で、従業員が機密情報を社外へ持ち出した。
結果(影響)
情報が外部に漏洩し、顧客からの信頼を失い、損害賠償が発生する。
例2:自然災害リスク(地震)
発生原因
耐震対策が不十分な本社オフィスで地震が発生し、重要なインフラや機器が損傷。
結果(影響)
事業継続が困難となり、長期間の業務停止・顧客対応遅延による信頼失墜。
2. リスク対応策の検討
上記のリスクシナリオに対しては、以下のような具体的な対応策が考えられます。
主な対応策 内容
情報漏洩リスク
対応策① USB制御ソフトを導入し、無許可の外部メディア利用を制限する
対応策② 情報セキュリティ研修の実施(eラーニングなど)
対応策③ 機密情報へのアクセス権を最小限に制限する
自然災害リスク
対応策① 耐震補強工事の実施および定期点検
対応策② BCPの整備と定期的な訓練
対応策③ サーバ・業務データのクラウドバックアップ体制の構築
3. 対応策が「機能しているか」を確認するためのモニタリング
対応策を講じるだけで終わらせず、その実効性を定期的にモニタリングすることが重要です。
ここで重要なのは、リスクが顕在化する「兆し」を捉える先行指標を設定することです。
モニタリング指標を考える際のポイント(例)
・対応策が適切に実行されているか、定量的に確認できるか?
・リスクの兆候を捉える「先行指標」になっているか?
・定期的に取得・確認可能な指標か?
4. モニタリング指標の例
情報漏洩リスク
対応策①:USB制御ソフトを導入し、無許可の外部メディア利用を制限する
モニタリングしたい観点:未許可のUSBの利用状況
モニタリング指標:未許可USB接続の検出件数(月次)
対応策②:情報セキュリティ研修の実施(eラーニングなど)
モニタリングしたい観点:ITリテラシーの浸透度合い
モニタリング指標:セキュリティ研修受講率(年間)
対応策③:機密情報へのアクセス権を最小限に制限する
モニタリングしたい観点:権限が定期的に見直され、不要な権限が放置されていないか
モニタリング指標:アクセス権の棚卸(四半期ごと)
自然災害リスク
対応策①:耐震補強工事の実施および定期点検
モニタリングしたい観点:建物の耐震性管理状況
モニタリング指標:耐震点検の実施状況・報告書提出率(年次)
対応策②:BCPの整備と定期的な訓練
モニタリングしたい観点:自然災害発生時の初動対応力の状況
モニタリング指標:BCP訓練の実施回数/参加率(年次)
対応策③:サーバ・業務データのクラウドバックアップ体制の構築
モニタリングしたい観点:データ保全の実効性
モニタリング指標:復旧テスト実施件数(半期ごと)
5. 最後に
リスクへの対応策を適切にモニタリングし、状況に応じた改善活動へとつなげていくことは、着実なリスクの低減を実現し、企業価値の向上にも寄与するリスクマネジメントの要です。
単なる対応の実施にとどまらず、「対応策が機能しているかを見極め、次の打ち手につなげていく」という視点を持つことで、リスクマネジメントはより実効性のあるものへと進化していきます。
本ブログが、貴社におけるリスク管理体制の高度化に向けた一助となれば幸いです。