業務日誌

リスクの定量化について

リスクの定量化は、リスクマネジメント業務における重要課題の一つである。従来の評価手法では、評価者の経験や主観に依存する部分が大きく、同一のリスクであっても評価結果にばらつきが生じやすい。その結果、リスク値の信頼性や説明可能性に課題が残るケースが少なくない。
こうした課題に対し、本稿ではAIを活用したリスク定量化手法の可能性について検証を行った。
具体的には、各リスクについて発生原因および顕在化時の影響を整理し、リスクシナリオとして定義する。その上で、あらかじめ設定した影響度および発生頻度の評価基準とともに、当該リスクシナリオを生成AIへのプロンプトとして入力し、リスク値の算出を行った。
本検討において使用したプロンプトは以下の通りである。
*****
あなたはリスク評価の専門家です。
以下の情報をもとに、影響度(5段階)、発生頻度(5段階)を客観的に評価してください。
【評価対象リスク】
機密情報の持ち出し
【リスクシナリオ】
退職前の社員が機密情報(価格情報、入札情報、技術情報等)を不正に持ち出す
【企業情報】
業種:製造業
年商:1,000億円
従業員数:1000名
【評価基準(発生頻度)】
1:ほぼ発生しない(10年以上に1回程度)
2:稀に発生する(5〜10年に1回程度)
3:一定頻度で発生する(1〜5年に1回程度)
4:比較的頻繁に発生する(年1回程度)
5:頻繁に発生する(年に複数回)
【影響度(財務影響)】
1:500万円未満
2:500万円以上5000万円未満
3:5000万円以上5億未満
4:5億以上50億未満
5:50億円以上
【出力形式】
① 影響度の想定根拠
② 発生頻度の想定根拠
③ リスク値
*****
■ 出力結果

① 影響度の想定根拠(5)
機密情報の範囲に価格情報・入札情報・技術情報が含まれる場合、影響は単一案件にとどまらず中長期的に企業価値へ波及する。価格情報の漏洩は継続的な競争力低下や受注率の悪化を招き、入札情報の漏洩は特定案件の失注や不正競争リスクにつながる。また、技術情報の流出は模倣や競争優位性の喪失を引き起こし、将来収益に深刻な影響を与える可能性がある。加えて、信用毀損や損害賠償、対応コストも考慮すると、年商1,000億円規模の企業では損失が累積的に50億円以上に達する蓋然性があるため、影響度は「5」と評価する。

② 発生頻度の想定根拠(3)
従業員数1,000名規模では毎年一定数の退職者が発生し、機密情報へのアクセス機会を持つ人員も営業、調達、設計など複数部門に広がる。そのため、不正の機会自体は継続的に存在する。一方で、一般的な製造業ではアクセス制御、ログ管理、誓約書等の基本的な内部統制が整備されているケースが多く、無秩序に頻発する状況ではない。ただし、転職時のインセンティブや不満、情報の持ち出し容易性(デジタル化の進展等)を踏まえると、一定の確率で発生し得るリスクであり、「1〜5年に1回程度」の水準と考え、発生頻度は「3」と評価する。

③ リスク値
15(影響度5 × 発生頻度3)

本手法の特徴として、評価ロジックを一定のプロンプトとして標準化することで、評価の再現性および一貫性の向上が期待できる点が挙げられる。また、従来はリスク担当者の経験や属人性に依存していた評価プロセスを形式知化できるため、ナレッジの共有・蓄積にも寄与する可能性がある。

一方で、生成AIによる評価は学習データやプロンプト設計に依存するため、出力結果の妥当性検証が不可欠である。また、評価過程がブラックボックス化するリスクもあることから、完全な代替手段としてではなく、人によるレビューおよび最終判断を前提とした補助的手法として位置付けることが現実的である。

以上より、AIを活用したリスク定量化は、従来手法の課題を補完し得る有効なアプローチであると考えられる。ただし、その適用にあたっては、リスクシナリオの記述方法や前提条件の設定を含めた評価プロセス全体の整備が重要となる。

※本稿における評価結果および手法は一般的な前提に基づく参考例であり、個別企業への適用にあたっては実態に応じた検証が必要となります。

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