近年、企業を取り巻くリスク環境は、従来の想定を超えるスピードと複雑性で変化しています。特に2025年は、複数のリスクが同時に顕在化する「複合リスク」への対応が、全社的リスクマネジメント(ERM)における重要課題となります。本稿では、今年注目すべきトレンドリスクを俯瞰し、リスク関連の部門の皆様がリスク管理に取り組む際の視点を整理します。
1. 地政学リスクの長期化とサプライチェーンの脆弱性
世界的な分断の進行により、安定した国際取引の前提が揺らいでいます。半導体やレアメタル、医薬品といった戦略物資を巡る規制強化、さらに物流拠点をめぐる地政学的緊張が、調達コストや納期の不確実性を一層高めています。
今後は単なる「調達先の多角化」では不十分であり、戦略的パートナーシップの構築や在庫方針の再設計が不可欠です。リスク管理部門はサプライチェーン全体を可視化し、ボトルネックや代替手段を定量的に把握する仕組みを整えることが求められます。
2. 気候変動と規制強化に伴うサステナビリティリスク
気候災害の激甚化に加え、ISSB基準など国際的な開示規制が拡大し、気候変動対応はCSRの枠を超えて財務・法務リスクに直結しています。取締役や部門長は、自社のみならずサプライヤーを含むバリューチェーン全体の対応について説明責任を果たす必要があります。
リスクオーナーは、脱炭素戦略をリスクマネジメントフレームワークに統合し、ESG課題を「事業継続リスク」と位置づけて取り組む姿勢が不可欠です。
3. サイバー攻撃の高度化と生成AIリスク
ランサムウェアは依然として深刻な脅威であり、近年は生成AIを悪用したフィッシングや偽情報拡散といった新たな手口が急増しています。加えて、生成AIの社内利用に伴い、「機密情報の外部流出」や「生成物に関する知的財産権リスク」も無視できない課題として浮上しています。
一方で、リスクはAIを利用する場合に限られるものではありません。人材不足が加速する中で、AIを十分に活用できない企業は業務効率化や競争力の面で遅れをとるリスクも抱えています。つまり、「AIを使うことのリスク」と「使わないことのリスク」双方を戦略的に管理することが今後の経営において不可欠です。
4. 人材・労務リスクの構造的変化
デジタル人材や専門人材の不足は深刻化しており、採用競争は激しさを増しています。その一方で、リモートワーク定着に伴うエンゲージメント低下やメンタルヘルス不調が顕在化し、人材の定着や生産性に影響を及ぼしています。
さらに、ダイバーシティや労働環境の健全性に関する社会的要請の高まりを背景に、人権リスクも重要な経営課題となっています。ハラスメント、差別、過重労働といった問題は、企業の評判や持続的成長に直結するリスクであり、国内外の規制動向を踏まえた対応が欠かせません。
まとめ
これらのトレンドリスクは相互に作用し、企業活動に複合的な影響を及ぼします。リスクオーナーや管理部門に求められるのは、単なるリスクの把握ではなく、本質的な課題を見極め、適切な対応方針を判断していくことです。その積み重ねによってERMの実効性が高まり、取締役層のリーダーシップの下、変化の時代における企業の持続的成長を支える仕組みが構築されていきます。

