こんにちは。
ERMの実務に携わる中で、多くのお客様からいただくご質問を取り上げるこのシリーズ。第3回となる今回は、「リスク管理委員会で何を報告すべきか」というテーマについて考えてみたいと思います。
なぜ、いまこの議題なのでしょうか?
実は、多くの企業のリスク管理委員会で報告されている内容は驚くほど似ています。その大半が「発生したインシデントの内容」と「その事後対応の状況」です。
もちろん、これらも重要な報告事項です。しかし、それらはすべて「過去に起きた結果の報告」に過ぎません。
私が常々お伝えしているのは、「リスクマネジメントの目指す姿は、問題が発生した後に対応するだけではなく、発生する前に対応できる状態をつくること」だということです。
つまり、リスク管理委員会を単なる「事故報告の場」にするのではなく、「リスクの予兆を共有し、必要な経営判断を行う場」へと進化させる必要があります。
インシデントの前には必ず何らかの兆候がある
インシデントの多くは、ある日突然、不可抗力によって発生するわけではありません。
多くの場合、何らかの変化の兆候が存在し、それを見逃した結果として顕在化します。定期的に適切なモニタリングが行われていれば、未然に防げた、あるいは影響を最小限に抑えられたケースも少なくないと考えます。
だからこそ、リスク管理委員会では「何が起きたか」だけではなく、「何が起ころうとしているのか」にも目を向ける必要があります。
委員会を「予兆を捉える場」に変えるために
そのために重要なのが、リスクオーナー(各部門の責任者)の役割の見直しです。
リスクを洗い出し、評価し、対策を講じるだけでは十分ではありません。これからのリスクオーナーには、KRI(Key Risk Indicator)を設計し、小さな変化や異常の兆候を捉え、経営陣の意思決定に必要な情報として整理・報告する役割が求められます。
ERMの本質を考える
ERMの高度化は一朝一夕に実現できるものではありません。
しかし、ERMを導入して数年が経過し、現場でやらされ感や形骸化が生じているのであれば、一度立ち止まり、「何のためにERMを実施しているのか」を関係者間で改めて議論してみてはいかがでしょうか。
リスクマネジメントの本質は、発生した事象を報告することだけではなく、将来起こり得る不確実性を見据え、経営判断に活かすことで、企業価値を守り、向上させることにあります。実践的なリスクマネジメントに挑戦し、予兆を捉えてリスクを未然に防げたという成功体験を一つでも積み重ねることができれば、ERMに対する見方や組織の行動は大きく変わっていくはずです。
リスク管理委員会が「過去を振り返る場」から「未来を守る場」へ変わることこそ、ERM高度化の重要な一歩ではないでしょうか。

