業務日誌

ERMは『経営のダッシュボード』

近年、企業を取り巻く環境はますます不確実性を増し、これまで想定されてこなかったようなリスクが次々に顕在化しています。自然災害の激甚化、地政学的リスクの高まり、IT・サイバーリスクの深刻化、さらにはESG・サステナビリティへの対応など、企業は複雑で多層的なリスクに直面しています。こうした状況の中、リスクを個別に対応する従来型のマネジメントでは限界があり、企業全体でリスクを俯瞰し、戦略的に取り組む「全社的リスクマネジメント(ERM)」の重要性が改めて注目されています。

ERMは単なるリスク管理手法ではなく、経営戦略と一体となって企業の持続的成長と価値創造を支える基盤です。言い換えれば、ERMは管理プロセス全体の計画とその進捗を可視化する仕組みであり、企業活動の“ダッシュボード”のような役割を果たすものだと捉えると、イメージしやすいかもしれません。
弊社では、ERMの構築・見直しに際し、以下の2つの視点が重要だと考えています。

1.リスクの“見える化”と優先順位づけ
最初に必要となるのは、リスクの洗い出しです。認識されていないリスクは管理の対象とならないため、このプロセスはERMの出発点として極めて重要です。
リスクを網羅的に洗い出すための有効なアプローチの一つとして、「事業目標(または部門目標)を阻害する要因は何か?」という視点から検討する方法があります。この視点に立つことで、目標達成を妨げる潜在的なリスクを体系的に抽出することが可能になります。
洗い出されたリスクについては、あらかじめ定めた評価基準に基づき、定量・定性の両面から評価を行い、その全体像を可視化します。さらに、重要リスクを特定する際には、事業への影響度や発生可能性に加えて、“対応の難易度”や“顕在化のスピード”といった観点も加味して多面的に評価し、リスクの優先順位を明確に設定することが重要です。

2.『ERMの構築』と『リスク文化』の両輪で動かす
全社的リスクマネジメント(ERM)は、ルールや手順といった“仕組み”を整備するだけでは、必ずしも十分に機能するとは限りません。実際、形式的な運用にとどまり、現場に根付かないケースも少なくありません。

真に機能するERMの実現には、現場の従業員一人ひとりが「自分の業務は常に正しい」という思い込みから離れ、部門目標の達成を阻害する要因に気づいた際、それをリスクとして認識し、声を上げ、行動に移せる“文化”を醸成することが不可欠です。

そのためには、定期的な教育・トレーニングの実施、成功事例や失敗事例の共有、さらには部門横断的な対話の場を設けるなど、組織全体のリスク感度を高める継続的な取り組みが求められます。

【まとめ】
ERMは構築して終わりではなく、あくまでマネジメントプロセスである以上、環境や組織の変化に応じてPDCAサイクルを回しながら、常に進化させていくべきものです。冒頭でERMは“ダッシュボード”のようなものと述べましたが、その指標を注視しながら経営判断を重ねていくことで、企業価値の向上につながると考えています。

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