BCP(事業継続計画)は、多くの企業で策定されています。しかし、実際に内容を確認すると、策定から年月が経過し、部分的な修正は行っていても、現状に即していないケースが少なくありません。
たとえば、記載された緊急連絡先がすでに使用されていなかったり、担当者が異動・退職しているにもかかわらず更新されていない事例は珍しくありません。
さらに、策定当初のメンバーがすでに在籍していない場合、計画の背景や意図が十分に共有されず、抜本的な見直しが困難になることもあります。こうした状態では、有事の際に計画が機能せず、現場の混乱を招く危険があります。
BCPは「作れば安心」ではなく、「運用し、継続的に更新して初めて機能する」計画です。放置されたBCPは、有事の際に役立たないばかりか、混乱や損害を拡大させる原因となりかねません。
1. 見直しを怠ることによるリスク
BCPは策定した瞬間から陳腐化が始まります。外部環境や内部環境は常に変化しており、数年前の前提条件がそのまま通用するとは限りません。特に以下のような変化に対応できていない場合は要注意です。
• 組織構造の変化
部署統廃合や人員異動により、記載された部門や責任者が現状と異なっている。
• 設備・システム更新
新しい基幹システムやクラウドサービスを導入したのに、旧環境前提の手順が残っている。
• 事業環境の変化
新規事業の開始、海外拠点の設置、サプライヤー変更などが反映されていない。
• 外部要因の変化
地震や水害のハザードマップの更新、働き方の多様化(在宅勤務)など、新たに想定すべきリスクが増えている。
こうしたズレは、災害や障害発生時に計画通り動けない大きな要因になります。「想定外」はゼロにはできませんが、「想定漏れ」は防ぐことができます。
2. 更新のタイミングとは
BCPの更新は大規模な組織変更や主要設備・システムの更新、新規事業開始などの節目には実施することが望まれます。
更新時には、次の項目を重点的にチェックしましょう。
• 連絡体制の最新化
緊急時の連絡先や手段(電話、メール、チャットツール等)は正しいか。実際に繋がるかのテストも重要です。
• 重要業務の優先順位
現在の事業戦略や顧客ニーズに沿っているか。数年前の優先順位が今も妥当とは限りません。
• 代替手段の実効性
他拠点や在宅勤務への切替方法、代替供給ルートは現実的か。契約や手順が形骸化していないか確認が必要です。
• 改善点の反映
訓練や実際の障害対応で得られた教訓を計画に反映しているか。改善サイクルを回すことが重要です。
3. 定期的な訓練
BCPの有効性を確認する最も効果的な方法は訓練です。
机上訓練(シナリオ型)では判断や意思決定の流れを確認でき、実動訓練では実際の設備や連絡体制の有効性を検証できます。
訓練を行うことで、多くの課題が洗い出されます。たとえば、連絡網の更新漏れ、代替設備の動作不良、重要データへのアクセス権不足、サプライヤーとの連絡遅延などは、平時には見過ごされがちですが、訓練を通じて初めて明らかになることが多いものです。
4. 洗い出された課題の改善
BCPは災害や事故発生時に企業の存続を左右しますが、それ以上に重要なのは平時からの改善活動です。定期的な更新と訓練を通じて、組織のレジリエンスを高めることは、取引先や投資家などステークホルダーからの信頼を確保するうえでも大きな価値があります。
BCPを定期的に見直すことで、「いざという時に使えるBCP」を運用することが、企業の未来を守る第一歩と考えます。

