業務日誌

全社的リスクマネジメントとサステナビリティの関係性

2025年を迎え、企業におけるサステナビリティ対応は、いよいよ本格的に実行フェーズへと移行しつつあります。私たちも現場支援を通じて、その変化を強く実感しています。
これまでESG(環境・社会・ガバナンス)は、どちらかといえばCSR(企業の社会的責任)の延長として捉えられることが一般的でした。しかし近年では、その位置づけが徐々に変化し、経営課題の一部としての重要性が明確になってきています。
なかでも特に注目すべきは、情報開示の在り方に関する変化です。現在、日本版サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の策定が進められており、2024年3月には公開草案が公表され、2025年3月には確定版が発表されました。
こうした動向を受け、サステナビリティ対応はIR部門や経営企画部門だけでなく、リスクマネジメント部門にとっても対応が必要な領域となりつつあります。ESGに関連する情報開示の信頼性は、企業のリスク評価や対応方針そのものに大きな影響を及ぼすようになっており、今後はERM(全社的リスクマネジメント)とサステナビリティの連携が、ますます不可欠なものとなっていくでしょう。

【ESGに関連する主なリスク例】
■環境(E)
 気候変動の進行によるサプライチェーンの中断(例:異常気象による原材料供給の停滞、物流網の寸断)
 カーボンニュートラル対応の遅れによる取引先からの排除や投資家評価の低下
 プラスチックや水資源などに関する規制強化への対応不足による罰則・風評リスク
 自然資源の枯渇や生物多様性の喪失に関する対応の欠如による長期的な事業継続性への影響
■社会(S)
 人権デューデリジェンスの未整備により、調達先での強制労働・児童労働が発覚した場合のレピュテーション低下
 ジェンダーや障害者などへの多様性・包摂(DE&I)対応の不備による社会的批判・炎上リスク
 労働安全衛生への配慮不足による事故・労災の発生および従業員満足度の低下
 地域社会・コミュニティへの負の影響(例:工場排水問題、用地開発による住民トラブル)
ガバナンス(G)
 形骸化した社外取締役や不透明な取締役会の運営による経営の監視機能の低下
 意思決定過程の不透明さによる投資家・ステークホルダーからの信頼喪失
 内部統制やコンプライアンス体制の脆弱性による不正・不祥事の発生リスク
これらのリスクは、本来ERMの枠組みにおいても扱うべきものでしたが、従来の「社内起点のリスク感覚」では捉えきれない性質を持っています。ESGとは、すなわち社会からの“要請”であり、“期待とのギャップ”そのものがリスクとなるのです。

【ERMとESG開示をつなぐ視点】
では、ERMの立場からESG情報開示にどのように取り組むべきでしょうか。私たちが特に注目しているのは、以下のような「接続点」です。
1. リスクカタログへESG項目の追加
気候リスク、人権リスク、取締役会の実効性などの非財務リスクをリスクカタログに組み込む動きが進んでいます。影響度や発生頻度に加え、社会的関心度といった軸を加えることで、より現実的かつ説得力のあるリスク評価が可能となります。
2. ESG関連リスクのモニタリング指標の導入
「女性管理職比率」「CO₂排出量」「サプライヤーの労働環境監査率」といったESG関連の指標をKRIとして設定し、ERMのPDCAサイクルと連動させる事例も増えています。これにより、ESG施策の実効性を継続的に評価することができます。
3. サステナビリティ委員会との連携強化
リスクマネジメント委員会とサステナビリティ委員会の役割が重なる部分が増加しており、両者の情報連携を強化することは極めて重要です。そのため、両委員会の事務局同士が定期的に情報を交換し、リスク認識と対応方針の一体化が着実に進められています。

【まとめ】
ESG対応は単なるルール遵守にとどまらず、ERM(全社的リスクマネジメント)と有機的に統合されることで、企業は社会からの信頼をより一層高めることが可能となります。サステナビリティとERMを効果的に仕組み化した企業は、信頼性の向上に加え、万が一の危機発生時にも高いレジリエンスを発揮できる体制を構築することができ、結果として長期的な企業価値の維持・向上にも寄与すると考えます。

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