企業経営において、ガバナンスという言葉を聞くと、
「ルールを守ること」
「不祥事を防ぐこと」
というイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし、本来のガバナンスの役割は、それだけではありません。
企業が持続的に成長するために、どのリスクを取り、どのリスクを避けるのかを経営として判断することも、ガバナンスの重要な役割です。
その中で重要になる考え方が、
• リスク値
• リスクマップ
• リスクアペタイト
です。
今回は、この3つがガバナンスとどのようにつながっているのかを整理します。
ガバナンスとは「すべてのリスクをなくすこと」ではない
企業経営では、リスクを完全になくすことはできません。
新規ビジネスへの挑戦、新商品開発、海外展開など、成長を目指せば必ず不確実性が伴います。
もし企業が、
「失敗する可能性があるから挑戦しない」
という判断ばかりしていれば、競争環境の中で成長することは難しくなります。
一方で、
「利益が出そうだから何でも挑戦する」
という考えも危険です。
そこで必要になるのが、
「どのリスクは取るべきか」
「どのリスクは避けるべきか」
を経営として決めることです。
これがガバナンスの重要な役割の1つです。
まずリスク値で「リスクの大きさ」を把握する
リスク値とは、そのリスクがどれくらい重要なのかを判断するための指標です。
一般的には、
リスク値 = 発生可能性 × 影響度
で考えます。
例えば、ある企業で、
• 新規ビジネスが失敗するリスク
• 情報漏えいリスク
• 法令違反リスク
があるとします。
それぞれについて、
「起こる可能性はどれくらいか」
「起きた場合、会社への影響はどれくらいか」
を評価します。
これにより、経営として注目すべきリスクを把握することができます。
リスクマップで「優先順位」を見える化する
リスク値を一覧化し、発生可能性と影響度で配置したものがリスクマップです。
一般的には、
• 右上:重大リスク
• 中央:管理が必要なリスク
• 左下:比較的小さいリスク
として整理します。
右上にあるリスクは、
「発生する可能性も高く、発生した場合の影響も大きい」
ため、経営として優先的に対応する必要があります。
一方、左下のリスクは、
「発生可能性も影響も小さい」
ため、一定範囲で受け入れる判断も可能になります。
ただし、重要なのは、
リスクの大きさだけで判断してはいけない
ということです。
例えば、法令違反や重大な安全問題は、発生可能性が低くても企業として許容できないリスクです。
そこでリスクアペタイトが必要になる
リスクアペタイトとは、
企業が目標達成のために、どの程度のリスクを取る意思があるかを明確にする考え方
です。
ここで、サッカーの例で考えてみます。
優勝を目指すチームがあるとします。
守備を固めれば失点する可能性は下げられます。
しかし、守りに徹するだけでは得点する機会も減り、勝利する可能性も下がります。
そこで監督は、
「優勝するためには攻撃する必要がある。そのため、多少の失点リスクは受け入れる」
という判断をします。
例えば、
「3点までの失点リスクは受け入れる。しかし、4点以上失点する状況になった場合は戦術を見直す」
という考え方です。
このように、
目標達成のために意図的に受け入れるリスクの範囲
がリスクアペタイトです。
企業経営でも同じです。
新規事業への参入には失敗する可能性があります。
しかし、将来の成長のためには挑戦が必要です。
そこで経営として、
「年間〇億円までの投資損失リスクは受け入れる」
「ただし、安全や法令違反につながるリスクは一切受け入れない」
という判断基準を決めます。
これがリスクアペタイトです。
リスクアペタイトは経営判断の「ものさし」
リスク値やリスクマップは、
「どんなリスクがあるのか」
「どのリスクを優先すべきか」
を教えてくれます。
しかし、それだけでは、
「そのリスクを取るべきか」
という経営判断はできません。
そこで、
• リスク値 → リスクの大きさを測る
• リスクマップ → リスクの優先順位を整理する
• リスクアペタイト → 会社として受け入れる基準を決める
という役割分担になります。
ガバナンスが目指すもの
良いガバナンスとは、
「リスクをゼロにする仕組み」
ではありません。
本当に重要なのは、
会社として守るべきものを明確にし、その範囲内で積極的に挑戦できる状態を作ること
です。
リスクを恐れて何もしない会社も、
リスクを無視して突き進む会社も、持続的な成長はできません。
経営に必要なのは、
「取るべきリスク」と「取ってはいけないリスク」
を見極めることです。
その判断軸となるのが、リスクアペタイトです。
明確なリスクアペタイトがあることで、経営の考え方が現場に伝わり、従業員は「どこまで挑戦してよいのか」を理解して行動することができます。
また、リスクが許容範囲を超えた場合には早期に気づき、必要な是正行動を取ることも可能になります。
このような仕組みが機能すると、経営と現場が同じ方向を向き、取引先や社会からの信頼向上にもつながります。
結果として、持続的な成長と企業価値の向上につながるのです。